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けんこう定期便

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No.21 第9回 全国大会inおかやま「県民公開講座」

「宇宙飛行士になるのに、1日どれぐらい勉強しなければいけないですか?」

小さな未来の宇宙飛行士の素朴な問いかけに、しっかりとした言葉でまっすぐに答える山崎直子さん。『宇宙での体感そして・・・』と題した招待講演では、文字どおり宇宙を感じさせる、貴重な体験をいくつも教えてくださいました。誌面の都合もあり、そのすべてをお伝えすることはかないませんが、演題にある「宇宙でどのようなことを感じたのか」「体にはどのような変化が起こったのか」を中心に”小分け”にしてみました。体感することの難しい宇宙での生活ですが、山崎さんのお話で、身近に感じていただけたらと思います。

もっとたくさんの人に行ってほしい

人類が宇宙にその第一歩を踏み出してから、およそ半世紀です。その間、どれだけの人が宇宙へ行ったと思われますか?500人ほど、つまり年間約10人の人が宇宙に行っている計算です。この数字を多いと思われるか少ないと思われるかは、まちまちかもしれませんが、もっとたくさんの人が宇宙に行ける世の中になってほしいなと思うんです。理科系・自然科学系だけじゃなくて、いろんな分野の人に。そして、できたら日本から、人が乗れる宇宙船を飛ばせたら――というのが、今の私の願い、夢です。そういう世の中になったら、また宇宙に行きたいなと思っています。

乗り物酔いの人は宇宙でも酔ってしまうの!?

宇宙に出ると、6割7割の人が宇宙酔いという症状にかかります。気持ち悪くなったり、吐いちゃったり――症状としては乗り物酔いと同じですが、相関関係はないと言われています。回転イスにすわってグルグル回される訓練のイメージがあると思うんですが、あれも今はやっていません。あの訓練がいくら強くても、宇宙酔いになる人はなります。反対に弱くても、宇宙で元気な人は元気です。関係ないんですね。自分の体が宇宙に行ったときに、どう反応するかというのは、まだ予測できない。実際に行ってみないと分からないのが、宇宙という世界です。

無重力までの道のりは、案外○○○なんです

宇宙に到達するまでの時間って、どのくらいだと思いますか?実はあっという間なんですよ。地上400kmを回っている宇宙ステーション、そこまでたったの8分30秒です。飛び立つまでに11年も訓練して・・・何か拍子抜けしてしまいますよね。ロケットが地上400kmに到達してエンジンが止まった瞬間、それまで感じていた3Gの加速度の力から解放され、一気に前のめりになる――電車や車でも急ブレーキをかけると前のめりになりますけど、一瞬そんな形で止まったとき、そこでシートベルトを外すと、そこはもう「すべてが浮いている」無重力の世界です。

タテ・ヨコ・ナナメと自由自在

一人一人寝袋に入って、それをマジックテープで止める――これが宇宙での就寝スタイルです。無重力ですから、床はもちろん壁に立ったままでも寝られて・・・常に浮いているような、水の中で寝ているような感覚です。宇宙船のコックピットでは、4畳半ぐらいのところに7人の乗組員が雑魚寝です。4畳半に7人!は最初「ちょっと狭苦しいな」と感じましたが、そこは無重力の世界。床・壁・天井と四方八方使えますから、結構広々と使えるものなんですね。ただ、夜中にふと目を覚ましたときに、思いがけないところに人の顔が浮かんで見えたりして、何度かギョッとしたことがあります。

鈍った味覚に少し濃い味で対抗します

3食とも宇宙食ですが、最近では種類が増えて、だいぶ美味しくなっています。ただ、宇宙空間では、味覚が少し鈍くなる傾向にあります。風邪を引いて鼻づまりになると、味の感じ方が鈍くなるかと思いますが、それと同じ。宇宙の場合、無重力なので体液が上の方にシフトしてしまうんです。足は細くなって、その分顔がむくんでパンパンに丸くなる――満月になぞらえて「ムーンフェイス」と呼んでいますが――何となく鼻づまりの状態というか、頭に血が上ったような状態になりがちなので、味覚は鈍くなってしまいます。だから味が濃いものとか、スパイスの効いたものが好まれますね。

宇宙では身長が伸びる?それとも縮む?

宇宙では、体の骨格、特に背骨が少し変形するんです。重力がなくなりますから。背骨と背骨の間隔が広がって、皆さん身長が2cmから5cmぐらい伸びます。私も3cmぐらい伸びました。反対に、骨密度が骨粗しょう症の患者さんの10倍の速さで減少していきます。筋肉、特に太ももの部分も、何も運動しなければ、寝たきりの人よりもさらに2倍速く減っていってしまいます。骨、筋肉は、宇宙にいるとどんどん弱くなってしまう。足は細く胴は伸びて、顔が丸くふくれて――宇宙人のイラストによく出てくる、頭デッカチの体型に近付いていくわけです。

手ではなく足で!?行儀が悪いですけど宇宙生活の知恵です

私たちは普段、足で歩いて、荷物を手で持ちます。でも、宇宙ではうまく歩けません。ついつい手で漕いでしまうのですが、いくら漕いでも進まない。手で宇宙船の壁を少しずつ押しながら進むんです。だから、手で荷物を持っていると邪魔になる――そこで、荷物を足に挟めば両手が自由に使えて便利なことに、だんだんと気づいてくるわけです。手で移動して、足で荷物を運ぶ――無重力だと手足の使い方もちょっと変わってきます。常識やものの見方が覆されてしまうというのは面白い体験です。ドアノブを回そうとすると、自分の体が回ってしまう。宇宙はやはり不思議な世界です。

宇宙での目まぐるしい1日

宇宙船は、地球を秒速8kmで回っています。90分で丸々地球を1周。だから宇宙船の中は、昼と夜が45分ごとに繰り返すという、あわただしい環境です。当然体のリズムが混乱するので、宇宙船の中でも1日は24時間と決めて生活しています。ただ、寝ている間も外の景色は明るかったり、木漏れ日が漏れてきたりと、生体リズムは少なからずストレスを受けるようです。ストレスへの治療に鍼灸を使うケースが多いと聞いていますが、宇宙はこうしていろいろな影響を受ける生活環境ですから、そういった特にストレスなどの部分に鍼灸が生かされる場面があるのかな?と期待しています。

地球を見上げて気づいたこと

宇宙で見る地球、昼間の地球は青く輝いていて、とても素敵です。宇宙に行く前、いろいろな写真を見て、「地球は青いんだろうな」とか、「きれいなんだろうな」とか、想像していたんです。そして漠然と、自分の足元に見えるものだと思っていました。飛行機に乗ったとき、地表が足元に見えるように――それが初めて宇宙ステーションの窓から見たとき、地球が自分の真上に輝いていたんですよね。すごくびっくりしたのを覚えています。宇宙に出て、一つの方向から物を見ることに慣れ過ぎてしまっているのかなと、そんなことを痛感した瞬間です。

 

山崎直子(やまさきなおこ)プロフィール