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けんこう定期便

Health News

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No.11-1 免疫バランスと健康

北海道大学教授 西村孝司先生 (プロフィールはこちら)

免疫研究の第一人者でありながら、食に対する造詣も深い西村先生。今日は専門である「免疫」と食、そして環境、未来といったスケールの大きな、北海道らしいお話をしていただきました。

子どもたちの体がおかしい

知ってのとおり我々は、いろんな「ばい菌」に囲まれて生活しています。皆さんの体を、この「ばい菌」から守っているのが、私の研究対象である「免疫」なんですが…この免疫、とりわけ子どもたちの体が、大変なことになっているんです。まず、これを知っていただきたい。
0歳から5歳までに免疫が完成しない子どもが、今、半数もいる。BCGを接種して、結核菌に対する抵抗性ができる…そういう今までなら“普通”の子どもが、全国平均で50%しかいないんですよ。生まれてから5歳まで、免疫が成立しない…これって、大問題です。
「免疫バランス」を利用してガンを治すことが本業の西村先生、その先生がなぜ「食と健康」を考えるようになったのか…そこには、こうした子どもたちの将来を心配する愛情と、未来を託し、未来を担う存在への熱い想いがありました。
子どもたちの異変に「何でだろう?」って考えました。その一因が食の変化にあるんじゃないか?食がしっかりしていなければダメなんじゃないか?と。免疫を高めて、体を作って…それには、やっぱり「食が大切なんだ」と思うようになりました。ちょっとふり返ってみてください。おふくろの味から“お”が取れて、今は袋の味になっていませんか?お総菜やコンビニ弁当ばかりじゃ、免疫が落ちてくるのも仕方がないですよ。
免疫だけじゃない。子どもたちの体内環境も、ずたずたに壊れてきている。我々はあと30年も生きればいいんですが、子どもたちはそうはいきません。ひょっとしたら、今の子どもたちの世代で、平均寿命がストーンと短くなってしまうかもしれない。そして、今の若者は、子どもがつくりたくてもつくれないんですよ。精子の数が足りない、数があっても構造がおかしい。だから、ほしくてもできないんです。内分泌系の異常でしょうか…これも由々しき問題です。

食生活の変化が体を弱くした

キレやすい子どもたち…おそらく神経のバランスがおかしいんでしょうね。テレビゲームとか仮想現実のものばかり追いかけて、神経バランスが崩れてしまっている。ハンバーガーを食べながらのテレビゲームは、もっと良くない。免疫は、野菜を食べないと弱ります。今の子どもたちにアレルギーが多いのは、肉ばっかりで野菜を食べていないから…ハンバーガーの売上げと一緒にアレルギー人口が増えてきたんです。免疫を高めるものとして乳酸菌がありますけど、これも食物繊維をいっぱい摂ることで増えます。だから、野菜はしっかり食べないといけません。
ハンバーガーを悪く言うつもりはありません。そもそも日本人とアメリカ人とでは、飢餓遺伝子が違うんですよ。アメリカ人は、食べてもそのエネルギーを出そうとするけど、日本人はエネルギーを貯めようとする。貧乏な民族なんですね( 笑)。だから、アメリカ人は太っても糖尿病にならないけど、同じことを日本人がやったら…それは、成人病になってもおかしくない。

ばい菌と闘うチカラ

青っぱなを垂らす子どもなんて、今、誰もいません。その代わり、白い鼻水は多い。あれはアレルギー性鼻炎の鼻水です。青っぱなは、免疫がばい菌を倒した、その“くず”です。死骸です。だから子どもには、青っぱなを、どんどん垂らしてほしいんです。これからは、「青っぱなを垂らす子どもをつくりましょう!」ですね。泥んこまみれになって、ばい菌と一緒に走り回るくらいのワイルドな子どもがいる、そういう社会を作らなければいけないんです。
食と健康と環境と医療。これらを結びつけた社会基盤。そして、その上に観光というものを据える。「北海道には、そういう“街”ができる環境が揃っている」と話す西村先生。食と観光を結びつけた理想郷を北海道に創り出して、地域を元気にする…きっとそこは、子どもたちが元気に育つ世界なのでしょう。
よく「食と観光」と言いますよね?じゃあ、そのために何をすればいいかと言ったら、皆さん答えはありますか?観光のために何か建物を造ったら、観光振興できますか?結局観光って、「あそこに行きたい」という気持ちだと思うんです。温泉があって、とてもきれいで…もう一度「あの街へ行きたいな」と。街のすばらしさ、つまり、そこで出会う人たちのすばらしさですよね。

有機的な社会を目指して

人々が食、健康、環境、医療をつなげた横断的な社会に暮らし、健やかで、ワイルドな子どもたちがいて…彼らの面倒を見るおじいちゃん、おばあちゃんがいる。そして、健康にいい食材があって、地産地消の全国区ブランドがあって…そこに行ったら「こんなにおいしいものが食べられた」「こんな健康指導をしてもらえた」「健康に気づいて良かった」と喜び、帰ってきたら「また行こう」と思ってもらえる街、これが観光振興そのものだと思うんです。
北海道には、健康にいい食材があって、健康にいい環境がある。そこが北海道の良さなんです。そこに科学的な根拠=付加価値を付けていければ、世界に誇れる「北海道」ができるのではないでしょうか?もちろん、その北海道を活性させるのは子どもたち、そして、元気な子どもたちを育む北海道。何か標語のようになってしまいましたが、そのために微力ながらも力を尽くしていきたいと思っています。
広大な北海道を舞台にした希望あふれるお話、ありがとうございました。
 

西村孝司先生プロフィール

東北大学薬学部薬学科卒。米国ハーバード大学医学部ダナファーバ癌研究所留学、東北大学解剖学講座助教授、東海大学医学部遺伝子工学・細胞移植研究センター次長、北海道大学遺伝子病制御研究所・ROYCE’健康バイオ研究部門教授兼務、文部科学省・科学技術政策研究所・科学技術動向研究センター・専門調査員、NPO法人イムノサポートセンター理事長。