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けんこう定期便

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けんこう定期便

No.10 趣味を持つ楽しさ

中部日本ダンス競技会ファイナリスト 福井建二・マリコ夫妻
(プロフィールはこちら)

時に妖艶な姿に思わず息を呑む――男女ひと組で舞うように踊る社交ダンスには、どこか気品を感じます。すでに体を動かす趣味を持たれている方も、お持ちで無い方も…今日のお二人の話をいい機会に、「社交ダンス」を体験されてはいかがでしょう?豊かな表情と、内から湧き出るような表現に魅了されるばかりでなく、思いきって「見られる」というステージに立ってみては?きっと今以上に輝いて見えるはずです。
編集部
1996年の映画『Shall we ダンス?』。この映画をきっかけに、ダンス人口がグッと増えたと聞きましたが…やはり「社交ダンス」と言うと、どこか縁遠く感じてしまいます。お二人がダンスと出会われたきっかけというのは?
建二氏
いろんなケースがあると思うんですけど…私たちは、大学時代に勧誘されて入ったダンス部がスタートになっています。
マリコ氏
そう、ちょうど18歳の時ですネ。
建二氏
当時は「風俗営業法」の関係で、18歳以上じゃないとできなかったんです、ダンスって。ただ、法律とは関係なく、その時まで、ダンスなんて見たこともなかった…。
編集部
若いとはいえ、未経験の競技、しかも社交ダンスを選ぶのは…なかなかできないですよ。
建二氏
そんな大げさな話じゃありません。18歳からしかできないわけですから、スタートラインがみんな一緒じゃないですか。なので、競技としてやっていっても「何とかなるんじゃないか?」と思っただけです。
編集部
実際に入部されてからは、いかがでしたか?思っていたとおりの世界だったのでしょうか?
建二氏
ダンスの前に、ちょっと空手をやっていて…正直、軟弱なイメージを持っていました。みなさんもそうじゃないですか?入部してからは、地味な練習をずっとやらされて…春合宿なんか、浜辺でたくさんのカップルが遊んでいる中、「ホールド」って、これまた地味な練習を一時間、黙々とやらされて…2年生くらいまでは「いつ辞めてやろうか?」という感じでした(笑)。
編集部
すると…何かターニングポイントのような出来事かあったとか?
建二氏
3年生になって、スタートラインが同じなのに負けて悔しい思いをしたりして…「勝つためにはどうしたらいいか」を考えるようになりました。その頃からですね、ダンスにのめり込むようになったのは。
編集部
ある程度ダンスのコツがわかってくると、楽しくなって夢中になってしまうものでしょうか?
建二氏
私たちにとってはダンス=「競技」だったので…楽しむという発想はなかったですね。
マリコ氏
一般の方はダンスパーティーとかありますけど、学生の場合は学生だけの世界、競技しか知らないんです。明けても暮れても、競技会ばかり(笑)。
そんな世界も時代が巡り、学校教育にもダンス(社交ダンスではありませんが…)が採り入れられるようになりました。子供から大人まで、幅広く愛されるようになって…最近では、ダンス教室も賑わっていると言います。
建二氏
音楽に合わせて踊るとか、日本人ってあまり得意じゃないと思うんです。社交ダンスで言えば、ちょっとした足型があれば踊れちゃうのに、そういう考え方が日本人にはない。「ちゃんと習わないと踊れない」という強迫観念みたいなものがあって…だから、ダンス教室が流行るんですけどね(笑)。
編集部
では海外、とりわけ盛んなヨーロッパなんかでは、どんな感じなのでしょうか?

建二氏
毎年ロンドンに行くんですけど、ダンス教室も少ないし、日本みたいに流行っていない…。音楽に合わせてちょっと動いたら、みんな楽しく踊れてしまう。それで十分なわけです。ところが日本人だと、それでは楽しむところまでいけない。日本人の勤勉さ、几帳面さの表れでもあるんでしょうけど。
編集部
ダンスにもワルツとかラテンとか、いろんな音楽がありますよね。リズム感も早さも強弱も違います。やはり体の動きとかも違うんでしょうか?
建二氏
「いい曲だな」って感じると、自然に体が動いて踊り出したくなりませんか?この踊りたくなるという気持ちがあって初めて、体が一歩前に出るようになる。ダンスにも深みが増すんです。曲に合わせるのも、もちろん大切ですが…まずは曲を楽しむ気持ちが一番じゃないでしょうか。
編集部
確かに、楽しむということは何事においても原点ですね。ただ、競技ともなると、そうもいかないのでは?
建二氏
そうですね。ホールドがあって、足型があってというところから始まるので…なかなか、そうはいきません。自分でも最近です。隣のライバルが気にならなくなって初めて力が抜けて…楽しめるようになりました。楽しむって、こういうことかと。
編集部
さすがに競技に臨むスタイルは、日本も海外も区別が無いと思うのですが…

建二氏
どうでしょう?見ていると、海外の方は、競技といっても音楽から、曲を楽しむところからスタートしている気がします。これは…なかなか真似ができない。ただ、子供のころから音楽やダンスに親しんでいる、今の日本の子供には、似たような感覚があるようですね。
編集部
ちなみに、リズム感というのはどうなのでしょう?天性だとか、筋がいいとか…あるんでしょうか?
建二氏
それは、あるかもしれませんね。
マリコ氏
ええ。以前に楽器をやられていた人は、やっぱりわかります。「何かやってました?」と聞くと、「サックスをやってました」とか…そういう人は、上達が、ちょっぴり早いみたい。
ダンスパーティーを覗いてみると、みなさんのスタイルが抜群だということに驚かされます。お年を召されていても、太った方がほとんどいらっしゃらない。これは、かなりのカルチャーショック。どんな食生活なのか…かなり気になりますね。
建二氏
みなさんがイメージしているのとは違っていると思いますが…意識はしています。ただ、エネルギーをどう作り出すかということではなくて、スタイルを維持するために、ですけど(笑)。
マリコ氏
競技に出る人もパーティーで踊る人も、やっぱりスタイルが大事!それなりに意識されてますネ。見た目――大事なんですよ、ダンスって。どんなに上手に踊っても、太っていたりしたら…印象良くないですよネ?だから、みなさん気にされています。
編集部
ベジタリアンが多いってことではないですか?感性が鋭くなるという話もありますし…
マリコ氏
ダンスでは、それは無いと思いますネー。
建二氏
やっぱり肉を食べないと…パワーが出ないですよ(笑)。ダンスはパワーが要りますからね…やっぱり、踊りきれないと。
マリコ氏
競技会の時は、すぐエネルギーになるバナナとかですが…競技会とかパーティーの前には…やっぱりお肉、食べたりします。
編集部
言われてみれば、ダンス=スポーツ。相当な運動量だと思います。やはり体調管理は、シビアにされているんでしょうか?
建二氏
競技会の一週間、二週間前からは気をつけますね。普段はお酒が好きなんですが、それも控え目にします。ただ、ストレスが溜まったらいけないので…ゼロにはしないですけど(笑)。
編集部
ストレスも体調のひとつですから…しっかり管理してあげないといけない?
建二氏
ダンスって…元気な姿で、人に生き生きと見えないといけないんです。それが、心の中にある「元の気」が無くなると、元気じゃなくなってしまって…審査する人にも楽しさが伝わらない。「元の気」を育てるためには、多少そういうものが必要なんです…って、完全に言い訳ですね(笑)。

編集部
外見だけではなく、内面から湧き出る「見た目」も大切なんですね…そのためにお酒ということですか(笑)
建二氏
(笑)。11年くらいサラリーマンをしてからプロになったんですけど、呑み方を師匠にひどく叱られました。それで「わかりました。次の全日本まで一年間、禁酒します」って宣言しちゃったんですけど…半年くらいしたら体調がおかしいんですね。どんどん元気が無くなっちゃったんです。
マリコ氏
「福井さん、どこか体調が悪いんじゃないですか?」って、先生がネ(笑)
建二氏
そんなことがあったので、やっぱり一番大事なのは、心の中にある「元の気」だ!と思って…好きなことは続けようと決めました。
趣味としてダンスをされる、健康法としてされる、スポーツ感覚でされる――みなさん、いろんな形でダンスを楽しまれています。年配の方は趣味と健康を両立させるタイプが多いようですが、中には、趣味の域を超えて取り組まれている方もいらして…。
マリコ氏
70歳を過ぎた年配の方が、ハイヒール履いて踊るんです!普段はこうやって…腰を屈めるように歩いてるんですよ。それが、ドレスを着て音楽が鳴ると…途端にシャキっとするんですよネ。
編集部
東洋医学の世界では、よく「気」という言葉を使うんですけど…まさにそれなんでしょうね。
建二氏
ダンスは「予防医療」。医療費削減にも、かなり貢献しているんじゃないですか?ダンス界は。元気な高齢者の方が多い…珍しくないんですよ。これは、すごいことだと思います。
編集部
足腰もしっかりされて、こうした高齢者が増えると日本も変わるんでしょうね。ただ、不幸なことに、ダンスの競技会で亡くなられるという痛ましい事故があったとか?
建二氏
今、ダンスの競技会は、危険な高齢者が多いんですよ。曲が鳴ったら曲が終わるまで踊り続けちゃうんです、ダンサーって。もう、「本能」ですね。
マリコ氏
競技会だから、審査員が審査もしているし…。
建二氏
中にはペースメーカーを付けた状態で、それでも競技会に出るっていう人がいる。命賭けてでも出たいって…プロじゃなくてアマチュアなんですよ。アマチュアでもそれだけ意識が高いんです。
マリコ氏
「そんな、命賭けてまでやっちゃダメだよ」って言うんですけどネ。それだけ一生懸命なんです、みなさん。
編集部
単なる趣味と片付けてしまうには、あまりにも大きな存在…ですね。
建二氏
サラリーマン社会とか、一般社会って…ストレスが多いじゃないですか。多分ダンスに行き着くまでに、いろんなことやってきたと思うんです。でも何も残ってなくて…ダンスに、すごく大きな価値を見出したんですよね、きっと。
編集部
生きる糧=大切な趣味と、うまく付き合っていくのも必要だと言うことでしょうか。
建二氏
これこそが普段の生活に「張り」を持つために必要なんだ、とダンスの世界に入ってこられたと思うんですよね…単にストレスのはけ口だけじゃない。緊張したりとか賞がもらえたりするステージなんて、日常生活にはあまり無いですからね。だからこそ、熱くなりすぎてしまう時もあるのでしょう…。
最後に、テレビでしか見たことがない人には、なじみの薄い社交ダンス――ダンスだから、踊れなければ楽しくないし、踊ったことのない人には、ちょっと自慢もしたいし…そこそこ踊れるようになるまで、実際どのくらいかかるものなのでしょう。
マリコ氏
週一回のレッスンだったら…三か月くらいあれば、一番簡単なステップは覚えられます。ダンスパーティーなら、これで十分踊れます!
編集部
テレビ番組とかでやってますよね…ダンス教室みたいな。そんな感じですか?

マリコ氏
さすがに少し難しくなりますけど…あれも簡単なステップだったら、半年もあれば踊れるようになりますよ。「複雑でなければ」の条件が付いちゃいますけどネ。
編集部
男性が軸になって、女性がその周りを回って…男性と女性とでは、動きが違うようにも見えますが。
マリコ氏
そうですネ。男性は「リード」で女性は「フォロー」って言われるんですけど…女性は、ある程度男の人が上手だったら、ついていけるんですネ。ただ、男の人はそうはいかない。やっぱりリードをしないといけないんで…だから、ちょっと時間がかかります。女性はついて踊っていればいいので、少し楽かもしれませんネ!
編集部
趣味を持つ楽しさのひとつとして、健康につながる社交ダンスの世界をたっぷりと聞かせていただきました。「見られる」ことを意識する運動って、なかなかありませんよね?建二さん、マリコさん、本日はどうもありがとうございました。
建二氏
マリコ氏
こちらこそ、どうもありがとうございました。
年配の方が、普段は見られないような動きで踊る「社交ダンス」。楽しい趣味が刺激となって、細胞の活性化につながり、内面から「元気」が湧いてきて、シャンと踊れるのでしょう。その姿はいかにも楽しげだとか。好きな曲が体を動かし、その動きがストレスを発散させる――「社交ダンス」を趣味の健康法として採り入れて、ストレス社会とうまく付き合える、「心と体」を手に入れてみてはいかがでしょう。半年後に華麗なステップを踏むことも…夢ではないようですから。
(インタビュアー:一見隆彦、秦 宗広、赤井康紀)
 

福井建二氏・福井マリコ氏プロフィール

ともに大学時代にダンスを始める。卒業後にカップルを組み、アマチュア選手として活躍し、3年連続中部アマチュアチャンピオンとなる。平成9年1月にプロに転向。1年で5階級特進をなしとげ、同年12月にA級に昇級。毎年英国留学し、マーカス&カレン・ヒルトンに師事。2001年、名古屋市東区にフクイケンジダンスアカデミーを開校。2010年11月に現役を引退し、後進の指導に力を注いでいる。戦歴:名古屋選手権大会優勝、中部選手権大会8回決勝入賞。財団法人日本ホールルームダンス連盟中部総局所属・中部日本ダンス競技会ファイナリスト。