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けんこう定期便

Health News

けんこう定期便

No.2 鍼灸に期待するもの

医療との出会い、漢方・鍼灸との出会い。

日本鍼灸師会60周年、本当におめでとうございます。私は昨年の9月末でフジテレビを退社し、すぐ10月から漢方・鍼灸を使った新しい日本の医療を作ろうという厚労省科研費の研究会で班長をし、鍼灸と出会いました。
この研究会で報告をまとめ、長妻厚生労働大臣に提出したのですが、残念ながら鍼灸について深く突っ込んで提言できなかったという無念な思いをしました。それは、きっと皆さんが抱える問題にもつながっているのではないか。そこを乗り越えることによって、日本の国民全体にとって本当に安心できる、信頼できる鍼灸が出来上がっていくのではないかと思います。

救急医療キャンペーンが、ジャーナリストとしての原点。

私は1980年にフジテレビに入社、88年から夕方のニュース番組「FNNスーパータイム」のキャスターになり、89年から2年間にわたって「救急医療キャンペーン」をやりました。新しいテーマを探していた当時、懇意にさせていただいていた東京消防庁 中条永吉総監が、こんな話をされました。
「黒岩さん、救急医療の問題は、すごく大事ですから取り組んでみては?」
最初よくわからなかったのですが、ようやく理解できたのは、日本の救急隊は医療行為ができない、やっているのは応急処置や搬送だけ…。そうして番組で、「救急医療キャンペーン」を始めました。2年間取材・放送を続けていたら、行政が動き、国会でも取り上げられました。最終的には91年、救急救命士法案が国会に提案され、全会一致で可決成立しました。これが、私のジャーナリストとしての原点です。

患者の視点に立つ、医療に向けて。

「救急医療キャンペーン」の次はナースの問題にずっと関わってきましたが、いちばん大事なのは患者の立場に立つことだと感じていました。
ところが、日本の医療界は、何でも医師中心です。そのような医療制度が、本当に良いのか?そう考えるようになったのはフジテレビの大先輩、逸見政孝さんが、がんで亡くなったのがきっかけでした。やせ細り、体力が低下しているのに逸見さんは手術を受け、がんの患部をごっそり切り取られたのですから、ビックリしました。案の上、まったく回復することなく亡くなりました。ドクターは人間や「いのち」ではなく、患部だけ見てたんじゃないのか。そうした中、「いのち」を見つめる医療、漢方と向き合うことになりました。
私の父親が肝臓ガンになったのです。
2005年夏、3センチの肝臓ガンが見つかりました。一時は元気を取り戻しましたが、やがて一切食べなくなり、やせ細っていきました。同じ頃、私は「末期がん患者に対して西洋医学は有効か?」というテーマのシンポジウムをまかされ、その時に出会ったのが女医の劉影先生です。病気を治すのが西洋医学、未病を治すのが漢方で人間全体のバランスを高めていくことを大切にします。劉影先生に指示された通りやっていったら、父は食欲が出てきてステーキを食べ、ビールまで飲むようになりました。中国には肝臓ガンの漢方の専門家がおり、その方から紹介された漢方薬を使ったところ、肝臓ガンは小さくなり、西洋医学の先生からは「肝臓がんは完治しました」と言われました。最終的に父は亡くなりましたけど、肝臓がんが原因ではありませんでした。

研究会の班長として、制度の見直しを提言。

運命というのは面白いですね。私は昨年の10月から、国際医療福祉大学大学院の教授になりました。その頃、慶應大学漢方医療センターの渡辺賢治准教授が訪ねてこられ、漢方・鍼灸を使った日本型医療の創生という研究会が始まるので班長をやってくれと、頼まれました。漢方を使った日本型医療創生ならわかりますが、鍼灸は別じゃないですか、という印象でした。ところが、渡辺先生は、こう強くおっしゃいました。
「いや、これは同じなんです、一体なんですよ」
報告書は漢方を西洋医学に、うまく合わせていくのにはどうすればいいかについて、まとめました。もともと漢方の哲学は、患者さんの病状により生薬を組み合わせ、一人ひとり違う処置をやっていく個別化医療、オーダーメイド医療です。西洋医学こそ、こうした医療をやるべきではないか。実現すれば効率的な医療が可能で、医療費も下がるのではないか。これが研究会の第一の提言でした。

日本の鍼灸のレベルは、非常に高度。

中国の病院に取材に行ったことがありますが、漢方と西洋医学が一体化した病院が既にあります。ところが、中国鍼は太くて粗悪品が少なくありません。日本の鍼や技術は凄く優秀で、とっても素晴らしい。日本の鍼が、鍼灸がこれから海外に進出できるという時に、中国産の鍼で世界のマーケットを押さえられてしまったら、どうしょうもありません、だから、日本の鍼灸は凄い、素晴らしいものであると、国を挙げて発言していくことが必要であると考えています。

鍼灸関係者に、言いたいこと、伝えたいこと。

日本鍼灸師会の中にも、いろんな意見があるかもしれませんが、病院の中で普通に鍼灸を受けられるようにするべきかどうか、意見を統一してほしいですね。患者さんのために皆さんの凄い技術を生かす、この一点に絞って考えてほしいのです。患者の立場に立って…、そうじゃないともったいないじゃないですか。要するに多くの国民が、おかしいと思うことについて、どう変えるか具体的なイメージを持つことです。
鍼灸という、自分たちの持っている力をどんどんアピールして、海外に出かけなくても日本にはこんな素晴らしい技術がある。もっともっと利用したい、と思うような流れを、ぜひ作ってほしいですね。

国家戦略としての、漢方や鍼灸。

ただ、漢方の生薬を、海外からの輸入に依存していることは問題ですね。中国は世界中で漢方が流行り、漢方薬は商売になると気が付き、権利を国際的な舞台で全部押さえようとしています。今年の秋に名古屋で「COP10(生物多様性条約第10回締約国会議)」が開催されます。我々は、これを環境問題とばっかり思っていましたが、必ずしもそうではありません。中国は生薬の原産地の権利を、全部押さえてしまおうと動き始めています。そうなるとも日本の漢方薬は、どうしようもなく高くなってしまいます。そういうことが、着々と進んでいます。事業仕分けで漢方を切るのではなく、日本の国家戦略として対応しなければいけないと思います。
また、日本には休耕田がいっぱいあり、漢方薬を作ったら地域再生化につながるでしょう。日本独特の技術といえば、植物工場もあります。さまざまな方法で、安心安全な漢方や生薬を作ることも可能だと思います。

国民への積極的なアピールも必要。

知らなかったら、変わりようはありません。知ってもらうところから、変わります。
実際、みんながその重要性を知り、救急医療は本当に変わりました。ですから、鍼灸に携わる方々は、鍼灸の能力・技術をどんどん国民にアピールしてください。こういう医療のやり方をしていく、病院や町の中でこのように鍼灸を生かすなど、誰にでもわかるように提示してほしいと思います。そうすれば、みんながニコニコ、元気に生きることができる、素晴らしい超高齢社会が訪れるに違いありません。
 

黒岩祐治先生プロフィール

ジャーナリスト・国際医療福祉大学大学院教授
(現 神奈川県知事)